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【小説】共感覚テスト

僕は、風の音や、蜂の羽音、ヘリコプターのエンジン音等のバズ音がとても苦手で、一瞬思考が停止してしまうくらい気になる。 幼い頃は、恐怖で居ても立っても居られないほどだった。
そのためかどうかは今となってはわからないが、子供の頃、共感覚の診断を受けたことがある。 共感覚とは、人の五感が混淆体になっている状態で、例えば共感覚持ちの人は、そこに鳴る音に視覚的に色彩を見出したり、また特定の文字や数字、曜日に特定の色がついて見えたりといった特殊な知覚のある、天才肌のイメージで語られる人たちである。 実際かなりの数の著名な芸術家が、共感覚の持ち主だったといわれる。
ランボー、ムンク、シド・バレットといった浮世離れした人たちが該当者と言われている。

僕は共感覚診断の趣旨を知らず、聞く気にもならず、質問にすべてはいと答え、自分の考えを聞かれると、すべてわかりませんと答えた。大人でも馬鹿なこと聞く人がいるんだなあくらいに思い。
後で、試験官の人に、何故嘘ばかりつくのか、と優しく尋ねられた僕は、何故意味のない質問で僕の価値を試そうとするのかという根源的な疑問を話す気にならず、黙り込んだ。

年月は流れ、僕は中年になった。 人一倍ビビりな僕に、共感覚などという手に余る力があったら、かなり大変だろうなと意味もなく自虐的に微笑んでしまう。
午後のコーヒーは意味もなく苦く、かといって好きで飲んでいて、窓から見える空は一点の曇りもなく青い。 しかし、味覚情報はあくまで味覚情報でしかなく、他のノイズの入らないコーヒーの味はケーキがあったら良いとさっきから僕に伝えている。 

written by ハロハロハウロー

2023/1/25